カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いとは?LTV最大化を実現する顧客対応戦略
カスタマーサクセスは顧客の成功を能動的に支援し、カスタマーサポートは問い合わせに受動的に対応する、それぞれ異なる役割を担う顧客対応手法です。
サブスクリプション型ビジネスが普及する2025年の現在、企業と顧客の関係性は大きく変化しています。
従来の売り切り型ビジネスモデルでは製品を販売した時点で取引が完了していましたが、SaaSをはじめとするサブスクリプションサービスが主流となった今、顧客との継続的な関係構築が企業の成長を左右する重要な要素となっています。
このような背景から、カスタマーサクセスとカスタマーサポートという2つの概念が重要視されています。
両者は顧客対応という共通点を持ちながらも、目的や姿勢、業務内容は大きく異なります。
本記事では、両者の違いを明確にし、顧客生涯価値(LTV)を最大化する戦略を解説します。

目次
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの決定的な違い
この章では、カスタマーサクセスとカスタマーサポートの本質的な違いを明確にします。
両者の定義を理解し、6つの観点から比較することで、それぞれが担う役割を具体的に把握できます。
カスタマーサクセスとは
カスタマーサクセスとは、直訳すると「顧客の成功」を意味し、企業が能動的に顧客の成功体験を支援し、ビジネスの成果達成を導く取り組みです。
2024年以降、特にSaaS企業を中心に、その重要性が高まっています。
本質は、顧客が自社のプロダクトを活用して期待する成果を実現できるよう、先回りして支援することにあります。顧客のゴール達成に向けて伴走し、継続的に価値を提供することで、顧客ロイヤルティを高め、長期的な関係性を築きます。
この取り組みは収益に直結するプロフィットセンターとして位置づけられ、解約率の低減やアップセル・クロスセルの促進を通じて、LTV(顧客生涯価値)の最大化に貢献します。
カスタマーサポートとは
カスタマーサポートは、顧客からの問い合わせやトラブルに対して受動的に対応し、課題解決を図る活動です。
製品の使い方がわからない、不具合が発生したといった顧客の不満や疑問に対し、迅速かつ的確に応答することで、顧客満足度を維持します。
コストセンターとして位置づけられることが多く、応答時間の短縮や解決率の向上といったKPIを重視します。
顧客が製品を正常に利用できる状態を保つことがミッションとなります。
両者の決定的な6つの違い
カスタマーサクセスとカスタマーサポートの違いは、以下の6つの観点から理解できます。
①姿勢の違い:能動的vs受動的
- カスタマーサクセス:顧客が問題を抱える前に先回りしてアプローチする能動的(プロアクティブ)な姿勢
- カスタマーサポート:顧客からの接点を待ち、問い合わせがあってから対応するリアクティブな姿勢
②目的の違い:成功支援vs課題解決
- カスタマーサクセス:顧客のビジネスの成功と成長を導くことが目的
- カスタマーサポート:発生した問題の解決と不満の解消が目的
③関わり方の違い:継続的vs単発的
- カスタマーサクセス:契約後も長期的に顧客と関わり続ける
- カスタマーサポート:問題が解決すれば完了する単発的な接点
④組織の位置づけ:プロフィットセンターvsコストセンター
- カスタマーサクセス:収益創出に直接的に貢献するプロフィットセンター
- カスタマーサポート:コスト管理が求められるコストセンター
⑤KPIの違い
- カスタマーサクセス:チャーンレート、NPS(ネット・プロモーター・スコア)、LTV、アップセル率、契約更新率
- カスタマーサポート:顧客満足度、応答時間、初回解決率、対応件数
⑥求められるスキルの違い
- カスタマーサクセス:戦略的思考力、データ分析能力、提案力(営業職経験が活きる)
- カスタマーサポート:共感力、迅速な課題解決能力、製品知識の深い理解
なぜ今カスタマーサクセスが求められるのか

この章では、カスタマーサクセスが注目される背景と、ビジネス環境の変化について解説します。
サブスクリプションビジネスの普及や市場競争の激化により、企業が取るべき戦略がどう変化したのかを理解できます。
サブスクリプションビジネスの普及と市場環境の変化
2025年現在も、サブスクリプション型ビジネスモデルの普及が加速しています。
買い切り型から定期購読型へのシフトにより、企業側は契約時点での売上だけでなく、いかに顧客に継続利用してもらえるかが重要課題となりました。
サブスクリプションサービスでは、顧客は簡単に解約し、競合他社に乗り換えられます。
そのため、顧客の離脱を防ぎ、チャーン(解約)を阻止することがビジネスの継続と成長に不可欠です。
顧客が不満を抱える前に先回りして価値を提供し続けることが求められます。
新規獲得コストと既存顧客維持の経済性
新規顧客の獲得には、既存顧客の維持と比較して多大なリソースとコストがかかります。
マーケティング、営業、インサイドセールスなど、新規リードの獲得から契約に至るまでのプロセスには莫大な投資が必要です。
一方、既存顧客に対するアップセルやクロスセルは、信頼関係が構築されているため成功率が高く、効率的に収益を増加させることができます。
カスタマーサクセスは、既存顧客の価値を最大化する戦略的なアプローチとして重要性が高まっています。
製品差別化の困難さと顧客体験の重視
市場が成熟し、プロダクトの機能や品質だけで差別化を図ることが難しくなった今、顧客に提供する体験そのものが競争優位性を生む要素となっています。
優れたカスタマーエクスペリエンスを創出することで、顧客の愛着とロイヤルティを高め、ロイヤルカスタマーを育成できます。
カスタマーサクセスは、顧客が期待値以上の成功を実感できるよう支援し、単なる製品提供者からビジネスパートナーへと関係性を進化させます。
この取り組みが長期的な競争力の強化につながります。

両者の具体的な業務内容と役割

この章では、カスタマーサクセスとカスタマーサポートの実際の業務内容を詳しく解説します。
それぞれのプロセスや活動内容を理解することで、自社での導入や運用のイメージを具体化できます。
カスタマーサクセスの業務プロセス
カスタマーサクセスの業務は、顧客のライフサイクル全体を通じて展開されます。
①オンボーディング(導入支援)
オンボーディングは、契約直後の顧客がスムーズにサービスを利用開始できるよう支援する起点となるフェーズです。
- 初期設定のサポート
- 基本機能のトレーニング
- キックオフミーティングの開催
- ゴール設定とアクションプラン作成
顧客が早期に価値を実感できる成功体験を創出することが重要です。
②アダプション(活用促進・定着)
オンボーディング完了後のアダプション段階では、以下の活動を行います。
- サービス活用度の継続的なモニタリング
- 定期的なフォローアップとミーティング
- 新機能の案内とベストプラクティスの共有
- ウェビナーの開催
- コミュニティプラットフォームの運営
利用が停滞している場合は原因をヒアリングし、改善策を提案することで、より深い活用を導きます。
③エクスパンション(契約拡大)
顧客が製品を十分に活用し、成果を実感している段階では、エクスパンションの機会が生まれます。
- アップセルやクロスセルの提案
- 上位プランへの移行支援
- 関連サービスの導入提案
- 契約更新の促進
顧客のビジネスの成長に合わせた戦略的な提案により、顧客単価の増加と収益の拡大を図ります。
④プロダクトへのフィードバック
- 顧客の要望や課題の収集
- 改善提案のインサイト獲得
- 社内の開発部門やマーケティング部門への共有
顧客ニーズに応えた製品開発が可能となり、市場での差別化を実現できます。
カスタマーサポートの業務内容
カスタマーサポートは、顧客が直面する具体的な問題を解決することに特化した部門です。
主な業務内容:
- 問い合わせ対応:製品の使い方、機能の説明、設定方法への回答。電話、メール、チャットなど複数チャネルでの対応、展示会でのアフターケア
- トラブルシューティング:システムエラーや不具合の原因特定と解決
- クレーム対応:製品やサービスへの不満への誠実な対応、顧客離脱の防止
- ナレッジベースの構築:FAQやマニュアルの整備による業務効率化
タッチモデルによる顧客セグメント別アプローチ
カスタマーサクセスでは、顧客をLTVや契約規模に応じてセグメント分けし、「タッチモデル」を活用します。
- ハイタッチ:LTVが高い重要顧客に対し、専任担当者による個別の戦略的支援
- ロータッチ:中規模顧客層に対し、グループミーティングやウェビナーによる効率的な価値提供
- テックタッチ:小規模顧客に対し、自動化されたメール配信やコミュニティ活用によるスケーラブルな支援
このタッチモデルにより、限られたリソースを効果的に配分し、すべての顧客に適切な支援を提供できます。
測るべき重要指標
カスタマーサクセスとカスタマーサポートでは、測るべきKPIが異なります。
カスタマーサクセスの主なKPI:
- チャーンレート(解約率):既存顧客の維持状況を示す指標
- カスタマーリテンションレート:顧客維持率
- レベニューリテンションレート:収益ベースでの継続率
- NPS(Net Promoter Score):顧客推奨度とロイヤルティを測るスコア
- LTV(顧客生涯価値):顧客がもたらす利益の総額
- アップセル・クロスセル率:既存顧客からの追加収益創出度合い
カスタマーサポートの主なKPI:
- 顧客満足度(CSAT):サポート対応への満足度
- 初回解決率:最初の接点での問題解決率
- 応答時間:問い合わせから初回応答までの時間
- 対応件数:処理した問い合わせの数
これらの指標を定期的にモニタリングすることで、各部門の活動の成果を測り、改善につなげることができます。

成功への実践ポイント

この章では、カスタマーサクセスを実際に導入・運用する際の具体的なステップと、陥りやすい失敗パターンについて解説します。
両者を連携させる組織設計
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、役割を明確に分けながらも緊密に連携することが重要です。
- サポート部門が収集した顧客の声やトラブル傾向の共有
- 定期的なミーティングによる情報交換
- 顧客データ一元管理による全体像把握
- マーケティング、セールスチームとの連携体制構築
両者を混同せず、それぞれの専門性を活かしながら協力することで、顧客エンゲージメントを最大化できます。
カスタマーサクセス導入の4ステップ
カスタマーサクセス導入は以下の4つの順番で進めていきましょう。
ステップ1:現状把握と達成すべきゴールの設定
- 解約理由の分析
- 顧客の利用状況データの収集
- 目指すべき成功指標(KGI)の定義
ステップ2:チーム体制の構築と責任範囲の明確化
- 専任担当の配置(最低1名)
- サポート、営業、マーケティングとの連携フローの設計
- 役割定義書(RACI)の作成
ステップ3:顧客ジャーニーの設計とテクノロジー基盤の選定
- カスタマージャーニーマップの作成
- タッチポイントごとの業務フローの定義
- 必要に応じてCSプラットフォームやCRMの導入
ステップ4:パイロット顧客での検証と全社展開
- 特定セグメント(ハイタッチ顧客など)での試行
- KPIの測定と改善サイクルの確立
- 成功事例の社内共有と段階的な対象拡大
導入時に陥りやすい5つの落とし穴
導入時にぶつかりやすい課題と、その対策は以下の5つです。
課題1:カスタマーサクセスとサポートの境界線の曖昧さ
- 問題点:既存のサポートチームに責任を追加するだけでは、日常業務に埋もれてしまう
- 対策:専任担当者を配置し、役割を明文化する。サポートは「問題解決」、サクセスは「成功支援」と明確に分ける
課題2:経営層のコミットメント不足
- 問題点:予算や人員が十分に配分されず、形だけの体制になる
- 対策:チャーン削減やLTV向上による収益効果を数値で示し、経営層の理解を得る
課題3:顧客セグメンテーションの未実施
- 問題点:すべての顧客に同じアプローチをしてしまい、リソースが分散
- 対策:顧客をLTVで3層(ハイ・ロー・テックタッチ)に分類し、重要顧客から優先的に対応する
課題4:成果指標ではなく活動指標のみを追跡
- 問題点:ミーティング回数やメール送信数など「やったこと」だけを測定
- 対策:チャーンレート、NPS、LTVなどの成果指標を必ずKPIに含め、結果で評価する
課題5:ツール先行でプロセス設計が後回し
- 問題点:高機能なプラットフォームを導入しても、運用フローが確立されていない
- 対策:まず業務フローを設計してから、必要な機能を持つツールを選定する。小さく始めて段階的に拡張する

成功を売る時代へ
カスタマーサクセスとカスタマーサポートは、「攻め」と「守り」という異なる役割を担い、ともに顧客価値の最大化を目指す重要な機能です。
サブスクリプションビジネスが主流となる現代において、両者を戦略的に活用することが持続的な成長を実現する鍵となります。
カスタマーサクセスは能動的に顧客を成功に導き解約を防ぎ、アップセルを促進してLTVを高めます。カスタマーサポートは受動的に顧客の不満を解消し、信頼関係の基盤を築きます。
この2つの取り組みを明確に理解し、適切に組織に組み込むことで、顧客との長期的な関係性を構築できます。
ASHIGARUは豊富な実績と専門知識を持つチームが、お客様のビジネスに最適な顧客エンゲージメント戦略をともに構築します。
カスタマーサクセスの導入を検討されている方、既存の取り組みをさらに強化したい方は、ぜひお気軽にお問合せください。
よくある質問
カスタマーサクセスとカスタマーサポートについてよくある質問をまとめました。
能動的か受動的かの違いです。カスタマーサクセスは顧客の課題を先回りして解決するプロアクティブなアプローチで、カスタマーサポートは問い合わせを待つリアクティブな対応です。前者はLTV(顧客生涯価値)最大化、後者は課題解決が目的となります。
サブスクリプション型ビジネスの普及により、売り切り型から継続課金モデルへ移行したためです。既存顧客のチャーン(解約)を防ぎ、継続的な関係構築が収益確保の鍵となっています。
一定期間内に解約した顧客の割合を示す指標で、カスタマーサクセスの最重要KPIです。サブスクリプションサービスでは、この指標を下げることが成長と利益拡大に直結します。
契約直後の導入支援プロセスです。早期に成功体験を提供することでプロダクトの定着を促し、離脱を防ぐ最初の重要な接点となります。
顧客が自社サービスを他者に推奨する可能性を測る指標です。ロイヤルティとエンゲージメントの深さを数値化し、ロイヤルカスタマー育成の成果を測ることができます。
顧客を契約規模でハイタッチ(専任担当者)、ロータッチ(ウェビナー等)、テックタッチ(自動化)の3層に分類し、限られたリソースを効率的に配分する手法です。
カスタマーサクセスはプロフィットセンター(収益創出部門)としてアップセル・クロスセルを推進し、カスタマーサポートはコストセンターとしてクレーム対応と問題解決を担います。
①オンボーディング(導入支援)
②アダプション(活用促進・定着)
③エクスパンション(アップセル・クロスセル)
④フィードバック(顧客情報の収集と社内共有)
この4段階で顧客のゴール達成を支援します。
はい。BtoBは高単価でハイタッチな個別対応、BtoCは顧客数が多くテックタッチによる業務効率化が中心です。ただし顧客の成功を導く本質は共通しています。
現状のチャーン要因を分析し、達成すべきKGIを設定します。その後、マーケティングやセールスと連携するチーム体制を構築し、まずハイタッチ顧客でパイロット実施することが重要です。
